第3回 特許付与後の訂正


 今回は、11月1日に判決がでた「特許付与後の訂正」に関する判例を紹介いたします。

 米国特許法255条では、特許発行後の訂正(クレームも含む)を限られた条件の下で認めています。今回ご紹介する判決は、どのような訂正が可能かを知るうえで参考になる判例といえます。特に、今回の事例は、名詞の単数、複数にする関する問題ですので、日本企業にとって頻繁に起こりうる事例と言えます。


SUPERIOR FIREPLACE CO. v. MAJESTIC PRODUCTS CO.


[この判例のポイント]

 特許法255条(35USC255)に基づく特許付与後の訂正は、Clericalあるいは
Typographical(誤記、誤植的)なミスあるいはを訂正するものであれば、特許請求の範囲を広げるものであってもかまわない。

 また、その訂正は、明細書、図面、Prosecution Historyから明らか(Evident)でなければならない。明らかでない場合は訂正は認められない。これは、特許のNoticeFunction(公衆が特許明細書、審査経過をみれば、特許請求の範囲がどこまでであるかを知りえるということ)を重視しているからであり、明細書、図面、Prosecution Historyから明らかでない補正は、Publicに対し、特許がNotice Functionを有していないことになると判断しているためである。


[事実関係]

 審査中、Telephone Interview後、Examiner's Amendmentで、審査官は他の補正とともにクレームの「Rear Wall」を「Rear Walls」と補正する提案を行った。これに対し、出願人のSuperiorはこれを訂正する機会があったにもかかわらず、訂正しなかった。そのため、そのクレームには、「Rear Walls」という限定で、特許が発行された。

 その後、特許権者のSuperiorは、Majestiに対し侵害訴訟をファイルした。その訴訟の中で、Majesticから、問題特許のクレームはRear Wallsと限定されており、Wall は2つ以上であると解釈されると指摘された。そこでSuperiorは、米国特許法255条(35USC255)に基づき、Certificate of Correctionの発行を特許庁に要求した。

 特許庁はその訂正を認め、Certificate of Correctionを発行した(なお、特許の明細書には、Wallが1つであるとも2つであるとも取れる記載があった)。

 本件では、この訂正の有効性が争われた。なお、侵害製品は、Rear Wallを1つしか有しておらず、クレームがRear Walls(複数のWalls)であると解釈されると、文言上侵害とならない点で、両者は同意していた。


[CAFCの判断]

 特許法255条では、訂正によるクレームの拡大を明確に禁止しておらず、NoticeのFunctionを満たすのであれば、クレームを拡大する訂正も可能。また、NoticeのFunctionを満たすためには、訂正事項が、明細書、図面、審査経過から明らか(Evident)でなければならない。

 本件の「Rear Walls」から「Rear Wall」への訂正は、明細書、図面、審査経過から明らかではく、特許庁の発行したCertificate of Correction(訂正)は無効。


※特許法255条
 Whenever a mistake of a clerical or typographical nature, or of minor character, which was not the fault of the Patent and Trademark Office, appears in a patent and a showing has been made that such mistake occurred in good faith, the Commissioner may, upon payment of the required fee, issue a certificate of correction, if the correction does not involve such changes in the patent as would constitute new matter or would require re-examination. Such patent, together with the certificate, shall have the same effect and operation in law on the trial of actions for causes thereafter arising as if the same had been originally issued in such corrected form.

※筆者コメント
 あたりまえのことですが、審査中、クレームの補正を行う際、あとで訂正をする必要がないよう明細書を十分検討することが必要です。審査中の不用意な補正は、あとで取り返しのつかない結果を生じることもあり、慎重に行なわなければなりません。明細書では、単数であるか複数であるかを明確にする必要があります。必要であれば、単数、複数の実施例を明細書に明記し、クレームでは、1つ以上であることを明記することで対処すべきでしょう(at least oneと言った表現を使う必要があります)。

※注
 ここに掲載しました要約から生じた一切の損害の責任は負いかねますのでご了承ください。また、それぞれのケースで、事実関係が変わっていますし、また、社内の判断のみでは、不十分な場合が多々あります。有効な判断を得るためには、米国弁護士の侵害鑑定、あるいは、クレームの解釈が必要です。



今泉 俊克(いまいずみ としかつ)
 米国特許弁護士。1962年、東京都出身。1985年中央大学理工学部電気工学科卒業後、1985年-1995年(株)リコー法務本部勤務。1995年-1998年駐在員としてRicoh Corporationに勤務。(ワシントンDC駐在) 1997年米国Patent Agent Exam合格(Limited Recognition)。2001年 Franklin Pierce Law Center卒業(Juris Doctor取得)。現在、Rader, Fishman & Grauer PLLC (ワシントンDC)で、主に特許出願手続き、意匠出願手続き、特定分野の判例の調査、法案の調査、判例に基づく米国出願用英文明細書の作成を行っている。2003年2月ワシントンDCの司法試験に合格。趣味:カニ釣り、下手なゴルフti@raderfishman.com